小説・震災後

小説・震災後 (小学館文庫)

小説・震災後 (小学館文庫)

二〇一一年三月十一日、東日本大震災発生。多くの日本人がそうであるように、東京に住む平凡なサラリーマン・野田圭介の人生もまた一変した。原発事故、錯綜するデマ、希望を失い心の闇に囚われてゆく子供たち。そして、世間を震撼させる「ある事件」が、震災後の日本に総括を迫るかのごとく野田一家に降りかかる。傷ついた魂たちに再生の道はあるか。祖父・父・息子の三世代が紡ぐ「未来」についての物語―。『亡国のイージス』『終戦のローレライ』の人気作家が描く3・11後の人間賛歌。すべての日本人に捧げる必涙の現代長編。

あの福井晴敏氏が、震災後半年にして急いで出版された本書。遅ればせながら2年後の今読んだ。政権も交代し、表面的にはだいぶ落ち着いてきたとみられる現在でこそ、当時は「いちかばちか」の博打的政治判断だったというのが断片的に伝えられてきている。しかし、もし当時読んでたら、けっこうショックだったろうなぁ…
今までの「亡国のイージス」や「ローズダスト」的な、大胆なフィクションと違って、材料が材料だけに、かなりノンフィクションの要素あり。フィクションを練りこむ必要がないほどに、大震災そして原発危機は甚大すぎた。主人公一家の住居とそれほど遠くない地に住むので、当時の状況がリアルに思い出された。
それでも、親父と若者の世代間交流や、壮大な未来展望の発議など、福井節は健在である。今回は、祖父・父・息子という三世代間の男のやりとりで描かれているが、この話に限っては、息子ではなく娘でもOKだろう。
この小説は、感動する・しないという読書感想には簡単には当てはまらない。読後に出てくるのは、ただただ、未来を信じたいという切実な願い。それを提示してくれた福井氏の勇気に敬服する。
解説がこれまた自民党の石破さんなのも嬉しい。もっともっと他の政治家にも読んでもらいたい。