第5回 戻れない二人

しかし一見、制作意図が見えない話です。それでもやっぱり面白い。一時間があっという間。

奥寺の周りの人間のセリフを聞いてるだけでも、十分に奥寺と美那子への非難と警告に溢れている。ジャーナリストの室井に「これはもう下ネタだ」と言わせ、南部社長に「お前は一人じゃない。なぜわからないんだ」と言わせ、北澤秋子に「この裁判は、みんなを不幸にする」と言わせている。
それでもどうしても和解に応じられない奥寺。でもそこまでストイックで北澤への友情に一直線かと思えば、一方で、美那子への思いも抑えきれず、裁判で一緒に闘ってくれる周りの人への迷惑も考えずに、美那子と山へひとときの逃避行。


視聴者に、奥寺のバカヤロウ!と、言わせたいとしか思えない進行ぶり。

実際ブログめぐりをしても、奥寺と作品への非難に溢れる感想を読むにつけ、胸が痛くなる。
NHKはなぜ、そんな風に「氷壁」を変えてしまったのか。
恋愛部分は確かに原作でも辟易した。だけど、カラビナ問題(ザイル問題)の描き方は、このままでいいのだろうか。
室井に、「カラビナのことなんてどうでもよくなってしまった。この裁判はすでに下ネタだ」、と言わせるからには、制作側もこのグダグダは認識してるってことだ。
残り一話で、これらの落とし前をしっかりつけることができるのだろうか。

「理性では割り切れない大人の恋愛」を描きたかったというのも判るが、この「氷壁」に関しては、それだけではすまないはず。しっかりケリをつけていただきたい。

最終回、「ラストシーンは奥寺の思いが昇華するような終わり方になっている」と、玉木さんはインタで言っている。今のままでは、奥寺の思いはどこにあるのか見えにくいだけに、この言葉の意味も何通りも考えられるのが辛いところ。私としては、例えまた、美那子を泣かせることになろうとも、山への思いを貫いて終わって欲しい。


今回は一段と、奥寺の欠点が露出しちゃってて、見るに忍びない。だが、それを演じる玉木くんの悩ましいまでに格好いいこと!うーん、玉木マジック。
客観的に見ると、本当に身勝手で朴念仁でバカちんな男なのだが、どうしても憎めない。
ダメ人間なのに、それゆえに魅力溢れる奴って確かにいるんだ。ゆかりや美那子の気持ちが良く分かるよ。
でも奥寺って男は、結局は、社会非適応者なんだな。一種の破滅型な人間。その辺は美那子と同類なんだろう。

ただ、美那子の「私は、嘘をつくのも隠すのも平気。でも奥寺さんが、嘘をつくのがいやというなら、私はそれでもかまわない」、というセリフがぐっときた。
ある意味、覚悟を決めた決意表明。鶴田真由さんの演技、良かった。覚悟を決めるという意味では、爪の演出も効果的だった。
また、お兄さん(高橋克美)の「おまえは、自分のことだけ考えていいんだ。お前が幸せじゃないと、俺もだめなんだ。」というのには泣けた。



はぁ、正直、感想がしにくい回だ。その割には延々語ってるけどね。
なのに自分的には、映像が過去最高の好みなんだ。演出がすごい好きというか。あれから何度も何度も録画に見入っている。今回の奥寺(玉木宏)は、神がかり的に男前。

印象的なシーン。

・南部社長に殴られた後の、泣きそうな痛々しい表情。

・同じく、南部社長に襟首をつかまれて怒られても、毅然として「やめさせてください」とうそのセリフ。その後の、「お世話になりました」と、南部さんの「ばかやろう・・」。泣けた。
(余談ですが、玉木くんの、威勢の良い紋きりタイプの口調は、戦争映画向きなのでは、と思う時がままある。1度彼の軍人役も見てみたい。)

・ラストで、美那子が「奥寺さんを愛しています」と言うのを聞いた時の、奥寺の表情。ちょっとあれは忘れられない。