感想(ネタバレ注意)

良かったです! 2時間半があっという間でした。
気に入った点……1.新聞記者によるナレーションで史実を解説しながら、ドキュメント風に淡々とサクサクと進むところ。 2.情報量や密度はけっこうすごいのだが、語りすぎない。察してください、みたいな。 3.お涙頂戴は最小限に押さえられている。 4.字幕も最小限なので、人物や場所、状況説明などは、観客各自の予備知識、あるいは映画への集中力が必要。 5.右にも左にもさほど偏らず、当時の世相を忠実に描写。人物達も当時の価値観に忠実。な、ような気がした。 6.マスコミのあざとさの描写がなかなか痛快。 7.長岡藩の武士道精神に言及してるとこ。河井継之助love♪
というわけで、なかなか大人な作りの映画でした。意外でした。
CGもなかなかでした。他の方の感想でもよく見ましたが、戦闘機が空母から発進するとこで、いったん機体がグーンと沈んでから飛び立つとこ、ちょっと鳥肌立っちゃった!感動した!あと真珠湾の時の戦闘機の山越えとか。けっこうスピード感も迫力もあって、合格点だったと思うよ!音楽も良かったしね!あと、CGではないけど、冒頭で、陸軍兵が海軍省を取り囲んで一斉に銃を構えるとこ、あれめっちゃかっこよかったなぁ〜。
以前も少し記事にしたけど、やはり半藤一利原作の『日本のいちばん長い日』が、太平洋戦争の終結を描いた作品であるわけですが、今回の『聯合艦隊司令長官 山本五十六』は、その戦争の始まりを丁寧に描いた作品として、そして大筋では同じドキュメントタッチの映画として、「対」になっている気がしました。ま、一緒に語ったら怒られそうな気もするけど。
また、故・松林宗恵監督の映画のような無常観もそこはかとなく全体に感じられました。なんでかな…。同じ連合艦隊モノだから、というわけでもないと思うのだが、かの映画『連合艦隊』に対してのリスペクトを感じました。
昔、あまり山本五十六について詳しくない頃は、山本五十六さんが好きでした。英雄だと思っていました。けど、いろいろ五十六さんのことを知るにつれて、良いとこばかりじゃなかったんだなー。人間だもの〜。みたいになって、この映画もけっこう客観的に観ていたんだけど、それでも、五十六さんが乗った機が墜落していくのを観るのは辛かった。この映画では他の機はわりとすぐに離れたけど、他の映画では他の機がお供するように、見守るように、いつまでも周りを飛んでいたよね。ああいうのには弱いわ…
辛いといえば、戦闘機乗りの五十嵐隼士くんも良かったですね。彼の眼力もなかなかだし、一挙一動がきびきびしていてかっこよかった。
一番ぐっときてしまったのは、実は黒島。そして南雲。あれは良いシーンでした…。
ラストシーンが物語る、戦争がもたらした無常観はけっこう強烈なものがあった。
でもそれだけで終わらないのが、エンディングの青い海と、小椋圭の主題歌「眦」…意外にも、すごく良かった。予告で聞いた時はうーんいまいちと思ったのに、映画を一通り見た後では、もの凄く心に沁みた。なぜ小椋さんが起用されたのか、理由がわかった気がしました。昭和を思い起こさせる懐かしい声なのはもとより、乾いているのに暖かく、そしてどこかアカルイ声。小椋さんの歌声は、「鎮魂」そして「希望」でした。映画館からの帰り道、「眦」が頭の中をぐるんぐるんしてました。
正直、鑑賞する前は心配でした。「ミッドナイトイーグル」のトラウマが大きかったせいか、敵方の描写の無いワンサイドストーリーと聞いていたからか、やばいのではー?と不安でいっぱいでした。敵方を出さなかったのは確かに惜しかった。これが日本映画の限界なのかなー?とも思ったけど、予算内で焦点を絞って、戦争を舞台にしたヒューマンドラマに仕立てたのは正解だったかもしれませんね。

見終わってからすぐに、もう一度観たい、と思わせる作品でした。戦争物なのに、悲しい辛い、だけの印象ではないのがいいですね。全体的に、上品な映画だなーという印象です。その分、強烈なインパクトには欠けるのですが、なんつーか、良質なドキュメント番組を観た後のような充実感がありました。


最後に、玉木宏の演技もすごく良かったです。思いがけなく映画に入り込んでしまって、玉木くんもすっかり映画の中の一人として観てしまいました。髪型やしゃべり方や服装で、数年に渡る時間の経過をちゃんと表現していたんですね。そういう細かさが好き。逼迫感高まる後半、そしてラスト近辺の演技が特に印象的。昭和の男が実に似合っておりました。
危惧していたことのもうひとつに、玉木宏演じる新聞記者、真藤利一が反戦思想の矢面に立ってしまい、妙に現代思想に迎合した内容になってたらどうしよう〜と思っていたのだが、そうはならず、安心しました。丁度良いさじ加減の、文字通りグレーゾーン。だがしっかり職務は全うする姿勢を見せてくれており、難しい役どころをまさに目の演技、背中の演技で魅せてくれてました。ナレーションもとても落ち着いた大人の声でした。演技、ナレ、ともに映画に溶け込んでいましたね。