『龍馬デザイン。』柘植伊佐夫

オススメです!
ページ数も多く、上下2段とかなりの文字数で読み応えたっぷり!大河ドラマ好きにはたまらない制作の裏話&記録本ではないでしょうか。『龍馬伝』を見てなかった方にはハードルが高いかもしれませんが、多分、見ていなくてもイマジネーションが広がるような内容かと思います。『龍馬伝』とはコンセプトやアプローチは違ってくるだろうことは想定の上で、来年の『平清盛』を楽しみにしている人にはうってつけの予習本かと思います。大河ドラマ制作の流れはどうなっているのか、人物デザインとはどういうものか、私も初めて知ることばかりでとても楽しめました。
50年の歴史を持つ「NHKの大河ドラマ」という巨大なブランド&組織が培ってきた“常識”に、全く新しいコンセプトを携えて真っ向から戦いを挑んでいった1年半の記録です。NHKってだけでガッチガチなイメージあるのに、その上“あの”大河ドラマですものね。ある種お役所的な組織の中に外部から入っていって采配をふるう、想像しただけでキッツイだろうなーと思うけど、案の定ものすごく大変なご苦労だったようです。そんな人間関係の齟齬、ルーティンワークの弊害など、実に率直に語られていて…驚きました。もっとも、書きたくても書けない部分の存在ももっとあるのね、というのも透けて見えましたが。

普通これだけしんどい思いを1年半も続けたら、もう大河はコリゴリ…となるはず。なのに『平清盛』を引き受けてくれた。本当〜にありがたいことです。手記ではスタッフや組織そのものについての苦言もいろいろと書かれていましたが、喧嘩別れなんてことにならなくて良かった!(大きなお世話ですいません…)終盤では全員が一体感を持って臨んでいたというし、良好かつ達成感のある現場で終われたのかな。後半の視聴率はともかく、演出や美術的には本当に高い評価でしたものね。
おかげで『平清盛』の人物デザインに対する夢と希望が沸きまくりです。氏の得意とするリアリティとデフォルメとの絶妙なバランスや、独創的な人物イメージを、今度は平安末期の世界で見れるかと思うと今からwktkだー!柘植氏のデザインって安っぽさとか幼さとは無縁だし、多重構造で複雑な奥行き、あるいは粋で洗練されたシンプル性…そんなとこが好きだ。


この手記の日付を参考にするならば、『清盛』も既にデザイン的にも打ち合わせや扮装テストなどが行われているかもしれませんね。まだ主役さんのみかもしれないけど。柘植氏のビジョンでは、義朝の扮装・メイク・髪型はどうなるのかなー?この本を読んでいくうちに、氏の発想の方向性がなんとなく判ってきた気になっているので、既に勝手に脳内イメージを作り上げております。そのイメージがどうくつがえされるか、はたまたイメージ通りなのか、それもまた楽しみのうち。『無頼の高平太』清盛との対比も重要でしょうし、磯Pがおっしゃっていた「源氏はシャープなイケメン」というのがどう反映されるのか。“ただただカッコイイ”だけでは絶対に収まらない+αが付随してくるでしょうね。その+α、あるいは−αが楽しみ。


それにしても、「人物デザイン」。一言でいうのは簡単ですが、ものすごい作業量の多さに、読んでて圧倒ました。ヘアデザイン・メイク・かつら・着物・小道具…これらを登場人物のほとんどにおいて一手にデザインし、準備し、作りこんでいくのですものね。細部に至るまでとことんリアリティと世界観にこだわり、こんなに手間ひまかけていたのかと驚きました。また、“1回デザインすれば終わり”ではなく、毎回のように撮影現場に同伴して、作中の時の流れにマッチするように、随時変化をつけていかなくてはならない。途中で肉体的にも精神的にも参ってくるのは当然かもしれません。役者もスタッフもタフでなければ務まらない、そんな過酷で、でもやりがいのある現場は、大河ドラマ特有ですよね。

手記の中では演出の大友氏とのやりとりがよく登場しますが、柘植氏による人物デザインと、大友氏らによる斬新なカメラワークは完璧にマッチしてたし、とても革新的でした。ただ、脚本だけが凡庸だったのが残念でなりません。また、台本の遅れが深刻になった3部・4部ではかなり現場の状況は逼迫していたようです。やはり脚本って大切…。来年はそういった事態に陥らないよう願いたい。…そういえば、再び大河ドラマに携わることになった柘植氏と、まさかのNHK退社の大友氏。どちらも予想外のニュースでしたが、このお二人がタッグを組んだ作品もいつかまた見れそうですね。


いやはや、前記事でも書きましたが、読んでる最中は柘植氏のテンションに引きずられまくりました。氏はとにかく深く深く考える方のようで、作業が困難さを増していく後半に行くにしたがって、どんどん哲学的に、時には宗教的に自己を追い込み、そして周りを見つめていきます。とことん追求し、とことんこだわる。マニアックなほどに。おこがましいけど自分もそういうところがあるので、波長が合ってしまったというか思考パターンに共感する部分が多く。なので一緒になって上がったり下がったりしたのかな…。前記事では思い切り影響受けてる真っ最中だったせいか、ご心配おかけして申し訳ありませんでした。もう大丈夫です。ちなみに、この本は内容はとても濃いけれど、暗いとか重いとかよりかは、むしろポジティブでクリエイティブなので、構えないでお気軽にお手にとってみてください。
この本、買ってしまうかもしれないな。本当に『清盛デザイン。(仮)』(笑)をぜひとも出してほしい。柘植氏の玉木評が読みたくてたまらない。

龍馬デザイン。

龍馬デザイン。