「星ひとつの夜」感想

今の時代にああいう脚本でああいう演出のドラマが成立してしまうというのが驚き。今の起承転結のはっきりした分かりやすいドラマとは一線を画しています。どこか現実離れしている、寓話的なお話ととらえたほうがむしろしっくりくるストーリー。でないと、唐突すぎたり無理があったりと、なにかと突っ込みたくなる。逆に、演出は淡々と台詞だけで進んでいくのが凄い。で、終わってみれば、繊細で優しさに溢れた爽やかさが残った。渡辺謙玉木宏の2人の掛け合いとか醸し出す雰囲気がとにかく面白かった。
ただ、野々山(渡辺謙)の人物像に一貫性が感じられなかったのが、良いのか悪いのか。判断が難しい。オーラを放ってるならもっとその線で押していけばよかったろうに、書き込み不足な気もした。でも内なる迫力はさすが。冤罪だけど受け入れて静かに服役し、真面目に生きていくのにしては、大樹に対しての態度が不自然で、おどおどしすぎたり、急に説教したり。終始同じペースの人間はいないということか。元商社マンで不倫だったというのも正直ぴんとこないが、でも2時間という時間軸でよくぞあそこまでまとめたなというのは感じる。
岩崎大樹役の玉木宏は、こういった現実離れした設定には本当にはまる役者ですね。何十億もの資金を動かすデイトレーダーというのはどう見てもジェイコム男ことN・B・Fがモデルだろうなぁ。N・B・Fもいい男だし、着てる服装も似ている。部屋も似てるし、使った金といえば家を買ったくらい、取引を「やめられない」というのも、友達も多くないというのも一緒だしね。今にもカップラーメンを食べそうでハラハラした。そういう例が実際にいるからか、一見現実離れしてても、大樹の背負った過酷さや孤独感には説得力があった。欲をいえば、予告とか提供に出てきた、株が暴落したパソコン画面を呆然と見詰め、必死でマウスを動かす大樹のシーンを本放送でも見たかった。思うに、ストーリーには直接からまない大樹の日常の一コマなんだろうけど、そのシーンの玉木がとても魅力的だっただけに、是非見たかった。
玉木くんの演じる大樹は、26歳にして人には出来ない凄いことをやってのけているくせに、世間知らずでナイーブな面が上手く出ていたと思う。台詞回しも良かったけど、千秋役で克服したと思っていた語尾の息漏れがまた目立っていたのは、ちと残念。時にはあの息もれがとてつもなく色っぽく感じるのだから、一概に悪いとは言えないのですが。でも玉木宏の武器はあの繊細な表情です。要所要所で実に良い表情をしていた。野々山さんとの距離の変化の出し方にしても、最初、目が見えないくらいに前髪を下ろし、ミステリアスで暗めの表情だったのが、ラスト間際には、おでこを見せすっかり明るい屈託の無い表情の青年に変わっている。上手い抑揚のつけ方だと思う。全体から醸し出す清潔感と上品さもあいまって、大樹という役はなかなか魅力的だった。ラストの「いいですか。絶対やってのけますから。絶対です。」と人差し指を野々山に向けるシーンの表情が絶品。キスシーンも良かった。奈津の髪をなでるしぐさがなんとも優しくてよかったわ。
それにしてもなんてホモホモしいドラマだったことか。まさかそんなことはあるまいと思ってずっと見ていたが、笹野さんのところで「やはりそうだったのか!」と何度も確信しそうに(汗)。なまじ、渡辺さんと玉木くんのツーショットが絵になるだけに、なんとも罪なドラマになってしまった気がする。でも、多少中途半端でもやもやした気持ちが残るけど、見終わった後、「良かったね」とさっぱりした気持ちになったことも確か。続編があってもおかしくない終わり方だったけど、わざと投げかけてお終いのようだったし、続編は無いだろう。個人的にはその後の大樹と奈津を見てみたいけど。